親の借金、本当に相続放棄しても大丈夫?相続放棄のメリット・デメリット
2021年07月14日
「何も相続しない」方法は2つある
ご遺族の方から「何も相続しないでおこうと思うのですがどうすれば?」というご相談を受けることがあります。
この、「何も相続しない」という方法には主に2つの方法があります。
①相続放棄 「何も相続しないこと」を裁判所に申し立てる手続き
②遺産分割協議 「何も相続しないこと」を遺族(相続人)との話し合いで決める手続き
相続放棄については、のちほど詳しく解説していきますが、それぞれの特徴を簡単に説明すると、このようなイメージです。
①相続放棄
- 裁判所に申し立てをする手続き
- 亡くなってから3か月以内手続きが必須
- 遺族同士の話合いに関わらなくても良い
- 後になって大きな借金が見つかっても、一切引き継がなくても良い
- 多額の借金があれば「遺族親戚みんなで相続放棄」を検討する
②遺産分割協議
- 遺族(相続人)同士の話し合いで決める手続き
- 費用がかからない
- 後になって大きな借金が見つかったら、その借金を引き継がなければならない可能性がある
ちなみに、ご遺族の方からよくこんな相談を受けることがあります。
この場合には相続放棄と遺産分割協議のどちらの手続きが良いでしょうか?
Q.
父が亡くなったのですが、兄が父の世話をしてくれていたので兄に全て相続してもらいたい。
私は何も相続しなくても良い思っているのですが、どうしたら良いですか?
【お父様の財産と債務の状況】
現預金 3,000万円
自宅不動産 5,000万円
自宅のローン 3,000万円
A.遺族(相続人)同士の話し合いで決めましょう。
この場合、債務よりも財産のほうが多く、さらに兄弟間の関係が悪いわけではなさそうなので、②遺産分割協議で手続きを進めた方が良いです。
つまり、相続放棄ではなく、遺産分割協議(話合い)をすべき人というのは、
- 財産よりも債務が少ない
- 遺族間で話合いができないほど関係性が悪いわけではない
という方があてはまることになります。
☆亡くなった方に多額の借金もなく、単純に「自分は引き継がないよ」というだけであれば原則として相続放棄ではなく、遺族(相続人)同士の話合いで決めれば済むケースがほとんどです。
相続税がかかってくる場合には、相続に詳しい税理士に依頼をしましょう。
遺産分割協議書の作成も依頼できるはずですので、お任せしてしまいましょう。
相続放棄とは
相続放棄を一言で説明すると、財産も債務も全て一切受け取らないことをいいます。
ここで言う「債務」は借金などがあてはまり、「財産」は現預金などの他にも、すぐに換金できないような土地や建物、非上場株式なども含まれます。
一般に、このような場合に相続放棄をすることが多いです。
- 亡くなった方の財産よりも、債務の方が多いことが明かなとき
- 財産も債務も受け取らないが、遺族(相続人)と一切話し合いをしたくない
相続放棄を選択すると、借金などを引き継がなくても良くなるかわりに、現預金だけでなく土地や建物も一切相続することができなくなってしまいます。
つまり、亡くなったご家族が自宅の不動産を持っている場合には、相続放棄をすると立退きをしないといけないといった可能性もあるので注意が必要です。
さて、ここから具体的なメリット・デメリットをご紹介します。
相続放棄のメリット
- 債務を一切相続しなくても良い
- 遺族同士の話合い(遺産分割協議)に関わらなくても良い
- 生命保険は受け取れる
債務を一切相続しなくても良い
相続放棄という言葉を聞いたことがある方は、
「相続放棄をしたら借金を引き継がなくても良いんでしょ」というイメージをお持ちの方も多いでしょう。
その通り、相続放棄をした場合には亡くなった方の「債務」を相続しなくても良くなります。
一方で、亡くなった方の「財産」も一切相続することができませんので、思い入れのある自宅などの財産を相続したい場合には「限定承認」という方法を使って、。
なお、「債務」には、亡くなった方個人の借金以外にもこんなものが含まれます。
①亡くなった父が経営する会社に多額の借入金がある
特にオーナー企業の場合、会社名義で借入をする際は社長が連帯保証人となっているケースが多いです。
社長個人の借金だけでなく、会社の借金の連帯保証人になっているケースが多いので、
経営する会社に借金が無いか注意が必要です。
②亡くなった父が、友人の借金の連帯保証人になっていた
亡くなった方が借金の連帯保証人になっていた場合、遺族(相続人)の方がその地位を引き継ぐこととなります。つまり、相続放棄祖しなければ、遺族(相続人)の方が、その借金の連帯保証人になってしまうということです。
③亡くなった父が税金や家賃等の滞納金があった
基本的には、亡くなった方に税金や家賃などの滞納があった場合、遺族(相続人)がその支払い義務を引き継ぎます。相続放棄をすれば、これらの支払を免れることとなります。
しかし例外として、公共料金については亡くなった方の配偶者は支払わなければならない可能性があります。
遺族同士の話合い(遺産分割協議)に関わらなくても良い
例えば、父の相続について、母や兄弟との関係が悪く、遺産の分け方の話合い(遺産分割協議)に参加したくないという場合にも相続放棄を用いることがあります。
相続放棄は遺族(相続人)1人で行うことも可能ですので、
相続放棄する旨を裁判所に申し立てることで、その後の話合いには一切参加することなく、
遺産相続の手続きから解放されることができます。
生命保険金は受け取れるものがある
これは意外な話かもしれませんが、相続放棄をしたとしても、受け取れる生命保険金があります。
まず、生命保険の契約に登場する人物として、この3パターンを押さえましょう。
- 契約者(保険料を支払った人)
- 被保険者(亡くなった人)
- 受取人(保険金を受け取る人)
そして、相続放棄をしても受け取れる生命保険金は、
- 受取人=相続放棄をした人
- 受取人の指定は無いが、保険の約款で、受取人=法定相続人と定められているもの
反対に、相続放棄をすると受け取れない生命保険金は、
- 受取人=亡くなった人となっているもの(医療保険の入院給付金など)
- 亡くなった人が被保険者でなく、契約者=亡くなった人となっているもの
このように、保険の契約によって、相続放棄しても受け取れるものと受け取れないものが存在します。
また、保険の契約の種類によって、「相続税」の対象となるものだけでなく、「贈与税」や「所得税」がかかってくるものもあります。
相続税に詳しい税理士のアドバイスをを聞きながら、間違いのないように申告していきましょう。
相続放棄のデメリット
- 財産も一切相続できない
- 他の親族に債務を引き継ぐ義務が移ってしまう
財産も一切相続できない
これまでお話ししたように、相続放棄をすると「債務」だけでなく「財産」も一切相続することができなくなります。
基本的には、亡くなった方の借金などの債務が多額の場合に相続放棄を検討しますが、
思い入れのある自宅などの「どうしても手放したくない財産」がある場合には、
どうしても手放したくない財産を相続しつつ、その財産の範囲内でのみ借金を相続する方法も検討すると良いでしょう。
その方法とは、「限定承認」といいます。
例えば、亡くなったお父様がこのような財産と債務を持っている場合を想定しましょう。
【お父様の財産と債務の状況】
現預金 1,000万円
自宅不動産 3,000万円
借金 9,000万円
このような場合に、自宅不動産を相続するかわりに、借金を3,000万円相続するような手続きが限定承認です。
相続放棄の場合と同様、死亡した日から3か月以内に相続人全員が共同して家庭裁判所に申し立てる必要がありますので、早めに手続きを進めていかないといけません。
他の親族に債務を引き継ぐ義務が移ってしまう
- 子、両親、兄弟姉妹、甥姪まで債務を引き継ぐ義務が移動する
亡くなった夫に多額の借金があったので相続放棄をした・・・だけでは安心できません。
相続放棄をした場合、その債務を引き継ぐ義務は「相続放棄をしていない人」にどんどん移っていきます。
ただし、相続権の移動は、子、両親、兄弟姉妹、甥姪に限られるため、少なくともこれらの親族には相続放棄をした旨を伝えないと、思わぬ迷惑をかけてしまうことになりますので注意が必要です。
どのように相続権が移動するかを表すと、このようになります。
亡くなった夫に5,000万円の借金があったため、相続放棄をした
↓
妻が相続放棄
↓
相続権が子に移動
↓
子が相続放棄をした
↓
夫の両親に相続権が移動
↓
夫の両親が相続放棄をした
↓
夫の兄弟姉妹に相続権が移動
※夫の兄弟姉妹がすでに亡くなっている場合は、兄弟姉妹の子(夫の甥姪)に相続権が移動
まとめ
相続放棄は、亡くなってから3か月以内にしなければなりません。
四十九日が終わってからだと41日しか残されていないのです。
その間に債務の状況を把握したり、家庭裁判所に手続きをしたり、他の親戚に相続放棄することを伝えたりと、時間的にはかなり厳しいスケジュールになってきます。
かと言って、焦って相続放棄を選択するのではなく、あなたにとって一番適切な方法は何かを専門家の意見を聞きながら、しっかり考えて判断していかないといけません。
相続放棄をされるのであれば、弁護士や司法書士に依頼しましょう。
ただし、遺族同士の話合い(遺産分割協議)で財産と債務の分け方を決める場合には、
まずは「相続税がかかるのか」から検討していくようにしましょう。
相続税がかかる場合には、亡くなってから4か月以内に死亡した日までの確定申告(準確定申告)をしたり、10か月以内に相続税の申告をする必要があります。
分からないことは家族だけで抱えずに専門家に聞くことが相続の鉄則です。
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